欲求のお話 ≪施設長 樋口≫
「トイレに行きたい」
「さっき行ったばかりですよ?」
在宅介護でも施設介護でも時々聞かれる会話です。
5分と経たずにトイレに行きたがる方もいます。
認知症の高齢者がトイレに行きたがった時、今やっている別の業務とどちらを優先するか悩んだり、忙しさから「ちょっと待ってもらおうかな」と思ってしまうこともあるかもしれません。
まず介護の常識として「排泄最優先の法則」という言葉を覚えておきましょう。
どんなに楽しいテーマパークでもトイレがなかったら1日楽しむことは無理です。
どんなに好きな相手でもトイレを我慢したままのデートは苦痛でしょう。
人間は生理的欲求が満たされないとそれ以上の幸福を求めることが出来ません。
それは介護の資格を持っている人なら一度は聞いたことがある
マズローの欲求5段階説からもわかります。
人間は、この図の一番下の欲求(生理的欲求)が満たされると一段上の欲求を求めるようになります。
わかりにくい方は、自分がたった一人無人島でも山の中でも外国でも、何も持たず空腹の状態でぽつんと畳ずんでいるところを想像すればいいかも知れません。
まず生きることに必要なことをするでしょう。
食べ物を探したり、排泄をしたり(生理的欲求)
さあ次は家です、安全な居場所が必要になります(安全欲求)
それが満たされると一人では寂しいので仲間をさがします(所属と愛情欲求)
仲間が見つかり仲良くなったらもっと自分を認めてもらいたいと思い始めます(承認欲求)
それらの基本的な欲求が満たされてはじめて「自分という人間はどうあるべきか」「自分の人生はこれでいいのか」という自己実現の欲求が生まれます。
これがざっくりマズローの欲求5段階説です。
つまり、一番下の生理的欲求が満たされていなければ上の段には行けず、幸福どころか生きていけません。介護施設でどんなに楽しいイベントを開催しても優しいスタッフがいても生理的欲求が満たされていなければ「それどころではない」のです。
どの介護の現場でも食事は確実に用意されます。なのに同じ生理的欲求である排泄への欲求は(もちろんトイレやオムツという排泄の仕方も)軽視されてしまうシーンが在宅、施設問わず少なからずあります。
このマズローの欲求5段階説から排泄は生理的欲求であり優先される事項であること、その為介護の現場では「排泄最優先の法則」になると、なんとなくでも理解できたでしょうか。
「トイレに行きたい」と言われたら「また?」ではなく、最優先される欲求がきたということなのです。また、やる事の優先順位が決まっているといっぺんにいろいろと考えることが減るので介護者のイライラも少しは軽減されると思います。施設の業務改革をしている方は何からとりかかればよいかという指針にもできます。
ちなみに今回のお話は排尿障害の話ではないので、排尿障害がある方は適切な医療の関りが必要になります。
余談ではありますが、緊急事態宣言下自宅にこもる生活の中「ARK」という、恐竜が生息する世界に1人放たれて自給自足の生活を送るゲームを始めたのですが、まさにマズローの欲求5段階説の通りの行動をとり、「あー、こういうことなんだな」と再認識しブログにしたためたしだいでございます。
(実際の画面です)