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鏡と話す ≪施設長 樋口≫

先日職員からこんな話がありました。
「鏡に向かって一人でしゃべっているご利用者がいるのですが、鏡を布などで隠した方がいいですか」
というもの。
認知症を患った方の中に時折みられる「鏡に映った自分と話す」“鏡現象”といわれる行動。
始めてみた人は「怖いな」「気味悪いな」と思ったりするかも知れません。認知症の中核症状である見当識障害などによって引き起こされる行動と言われていて、施設でも在宅でも見られる行動です。
さて、上記の職員の質問への私の回答は、
「鏡の中の人と楽しく話が出来ているならそのままでいいよ。もし隠すなら職員が鏡の中の人の代わりになってあげて。」
でした。
この回答が正解かどうかは置いておいて、しばしば介護のプロである職員も認知症高齢者のBPSDを「問題行動」として捉え、その行動をやめさせようと頭を働かせます。医療でもまだ治せない認知症を修正し、健常者に戻そうと頑張ってしまうんですね。これには非常に労力がかかります。自宅でも施設でも、鏡が話し相手を買って出てくれているんですから“もう一人のその人”に甘えるのも悪い事ではありません。何より「どこかで見たことがある人」と話している認知症の高齢者は笑顔だったり、“もう一人のその人”に大事な相談をしたりしていることもあります。せっかくの信頼できる“もう一人のその人”を隠す必要はないでしょう。
ただ、鏡現象が見られる認知症の方が怒っている時や被害妄想など攻撃的な言動がある時には鏡は隠した方がよい時もあります。なんせ鏡の中の“もう一人のその人”ももれなく怒っていますから。