介護は引き算 ≪施設長 樋口≫

皆さん、「ジャンクフード」って知っていますか?
ハンバーガー、二郎系ラーメン、ケーキ、ピザ。
ジャンクフードはいわば「足し算の料理」です。ラーメンなら「硬め・濃いめ・多め」、ニンニク・アブラマシマシ。ハンバーガーにベーコンや目玉焼き、マヨネーズを追加。ケーキにはフルーツやチョコをトッピング。
ジャンクフードは足せば足すほど美味しくなります。
一方で、代表的な「引き算の料理」は日本食。余計なものは入れず、そぎ落とし、素材の味を活かす。
煮物、焼き物、刺身などがそうです。
今日は、食べ物とは関係ないけど足しても美味しくない「足し算」と「引き算」の話。
皆さんは「手厚い介護」という言葉を見聞きしたことがありますか?
以前は老人ホームの広告やホームページなどでよく見かけましたが、最近はあまり見なくなりました。人手不足でそれどころではない、という事情もあるのかもしれません。
私はこの「手厚い介護」という言葉があまり好きではありません。
理由は大きく2つあります。
1つ目は、利用者・家族と事業者の間でイメージにズレが生まれることです。
利用者側が想像する「手厚い介護」は、まるで高級ホテルのように、何でもやってくれるサービスかもしれません。
しかし事業所が考える手厚い介護は、重度の方に対して、移動・排泄・食事・入浴・口腔ケアなど、必要な介助をしっかり行うことです。
このギャップが、「ほったらかしにされている」「思っていたのと違う」という不満につながることが少なからずあります。介護職員は懸命に「介護」をしているのに、評価されない。これは現場としてもつらいところです。
2つ目の理由は、そもそも「手厚い介護」は本質ではないと思うからです。
介護保険の大きな目的の一つは「自立支援」です。
利用者ができることは自分で行い、できない部分だけを支える。これが本来の介護の姿です。
極端に言えば、介護職は「空気」のような存在でいい。必要なときにだけ自然に関わる。それが理想です。
しかしこれまでの介護は、どちらかというと「足し算」でした。
誤嚥が怖いから食事介助。
こぼすから食事介助。
転倒が怖いから移乗介助。
浴室が危険だから機械浴。
着替えが遅いから介助。
オムツ交換も1日8回以上という施設もありました。
結果として、必要以上に手を出してしまう「過剰介護」が生まれてきました。
まぁ手厚いっちゃ手厚い。
でも必ずしもそれは利用者の為ではないものもありました。
介護は本来「引き算」です。
その人ができることを奪わず、必要なところだけを見極めて支える。
利用者が「やりたい事」から「できる事」を引くと「介護が必要な部分」となるわけです。
例えば、食べこぼしが多いなら、姿勢や食器、自助具、環境を見直すことで自分で食べられるようにする。
スプーンですくえるけど口元までうまく上がらないのなら全介助じゃなくて手を支えてあげるだけでいい。
移乗や入浴も同じです。
全部やるのではなく、「できる部分は任せる」。
そうすることで、利用者は能力を維持・向上でき、職員も無理に力を使わずに済む。
まさに、お互いWIN・WINです。
ただ、この「引き算の介護」はなかなか広がってきませんでした。
背景には、昔の「お世話中心」の介護の考え方があります。
しかし時代は変わりました。
業界全体で外国人材に頼らざるを得ないほどの人材不足。引き算をせざるをえなくなったのです。
見守りセンサーやカメラを使い夜間の巡回を減らす、膀胱の尿を感知するセンサーで事前に尿意がわかるので定時のトイレ誘導を減らす、排便を感知して漏れる前におむつ交換をして定時のオムツ交換を減らす、さらに、高性能のオムツの登場で何回も交換しなくてもよくなったり、移乗介助にはアシストスーツ、記録も声でできるようになったり、さまざまなテクノロジーが導入され始めています。(さすがに全部入れてる施設はないでしょうけど)。
これらは主に「職員の負担軽減」が目的ですが、結果として介護の在り方を見直すきっかけにもなっています。
この引き算こそ今言われている「生産性の向上」です。
これからの介護に必要なのは、
「自立支援」と「生産性の向上」
この2つを両立させることです。
どちらか一方ではなく、両方ができてこそ、この業界の未来が見えてきます。
「今のままでいい」「新しい機械は使えない」
そうして過剰介護を続ければ、現場は大変なままで人手不足も解消されません。
変化できない業界に対して、国からも大きな期待は寄せられなくなるでしょう。処遇改善なんて話もでてこなくなるかもしれません。だって今のままでいいんですから。
もうこれは介護福祉士会などの職能団体とか上のレベルの話じゃなくて現場で働く人が本気で考えなきゃいけない話。
本当に必要な介護とは何か。
支えるとはどういうことか。
答えはシンプル、「引き算の介護」。
ここまで読んでくださった方へ。
今日は、日本食でいきましょう。


