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介護業界を取り巻く環境の変化 ≪施設長 樋口≫

 

この数年で、介護業界を取り巻く環境は大きく変化しました。

慢性的な人手不足が続く業界ではありましたが、かつては求人広告を出せば数名の応募があるのが当たり前でした。

しかし現在は、多くの現場であらゆる手を尽くしても応募が集まらない状況が続いています。多くの施設が外国人材に頼らざるを得ず、弊社もそこまでではないものの、採用には相当の苦労をしています。

労働力不足は介護業界だけの問題ではありません。日本全国、あらゆる業種で人材不足が起きており、その影響が間接的に介護現場へ波及しています。

例えば、公共交通機関に依存している山間部の介護施設では、利用者減や運転手の不足によりバスの減便や廃止が相次ぎました。

その結果、夕方以降の勤務、いわゆる「遅番」の職員を確保できなくなり、夕食の提供時間を早めざるを得ない状況が生まれています。

私の知る有料老人ホームでは、夕食が16時という施設もあります。

影響はそれだけにとどまりません。

人員確保がさらに難しい地域では、利用者の食事を作る調理員を確保できないなどの理由から、給食委託業者の撤退も起きています。その結果、朝食が簡素化されたり、提供時間が遅れたりするケースも出てきています。朝食は遅く、夕食は早く提供される。結果として食事間隔が極端に狭くなっている施設もあるのです。

以前は、給食委託会社が複数社営業に訪れ、「こんな食事を提供できます」「ぜひ当社を使ってください」と提案していたものでした。しかし現在では、大手の給食会社ですら「新規開拓は行っていません」「湯河原では提供できません。仮に始めてもいずれ撤退します」と言われる始末です。

こうした状況の中、介護業界に強く求められているのが「生産性の向上」です。

これまで介護現場では縁遠かったデジタルツールの活用、業務の整理、業務プロセスの標準化。

職員の負担を軽減し、誰が担当しても一定の質を確保できる体制づくりが進められています。

どの業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、人がやらなくてよいこと、人がやるより正確なことは次々とデジタル化されており、その波は介護業界にも確実に押し寄せています。

万年介護業界が抱える「人手不足」と、求められている「生産性向上」は、一見すると非常に相性が良い概念です。確かに理屈としては納得できます。

ただ、ちょっと引っかかることもあります。

給食業者が撤退し、食事がチルド品中心になった。調理の手間が減った。

公共交通機関がなくなった結果、夕食が早くなった。つまり職員が少なくて済むようになった。

人が少ないから行事を縮小、中止した。お風呂の回数を減らした。

質を下げれば、削れば、少ない人数で回せる。

こうした「どうしようもない現実」から生まれた副産物のような変化が、いつの間にか「生産性の向上」と呼ばれ、当たり前になっていくのではないか、と。

本来、生産性の向上とは、サービスの質を維持、あるいは高めながら効率を上げることのはずです。
しかし現実には、質を少しずつ削りながら「業務をまわす」に合わせていくことが、生産性向上と混同されていくことを危惧しています。

介護業界の生産性向上は、形はどうあれ「労働力減少への対応」が出発点。
人が減ったから質を削る、削ったらまわった、まわるから問題ない、この先にあるのは生産性の向上ではなく、職業としての介護を極限まで薄く軽くした未来でしょう。

専門性よりも作業量が評価される介護。個別ケアよりも管理のしやすさが優先される介護。

それは、私たちが積み上げてきた専門職としての介護でしょうか。

 

 

これ、介護保険が始まるずっと前の介護に戻ってませんか。

今求められている「介護の生産性向上」で、管理職がこうした勘違いをしないように肝に銘じておかないと、「人が少なくても回せるなら人を減らそう」という発想が生まれてしまう危険があります。

生産性向上は、介護の質を下げるための免罪符ではありません。
むしろ、限られた人員でも「より良いケア」を実現するための手法であり道筋です。

その原点を見失わないことが、管理職にも現場にも求められているのだと思います。