それだけの仕事にしないでほしい ≪施設長 樋口≫

時代はインターネッツ。
どんな情報もスマホから手に入る。いい時代だ。
インフルエンサーと呼ばれる人たちが毎日毎日発信してくれる。
いろんな業界の仕事も、いろんな人の生活も、手に取るように見える。
まるでそれが全部で、それが真実みたいに。
介護の世界も例外じゃない。
「闇」とか「地獄」とか、そういう話のほうがよく伸びる。
「モンスター家族がいる!」
「暴力を振るってくる認知症高齢者!」
「一晩中鳴りやまないコール!」
まあ、伸びるよね。刺激が強いから。
でも、それを見た人に「それが普通なんだ」と思われてしまうのは、正直解せぬ。
20年以上この業界にいるけど、
クレーマーみたいな家族はほとんどいないし、理不尽な要求もほとんどない。
暴力を振るってくる高齢者もほとんどいない。
希に叩かれたとて高齢者、ほとんど痛くない。(噛まれた時と、二の腕つねられた時は普通に痛い)
「一晩中コールを押されて仕事にならなかった」っていうのも、
言い方を変えれば「一晩中その人のニーズを拾えなかった」ってことだし。
もちろん、しんどい日もある。
でも、“たまに起きる嫌な出来事”を切り取って、
それがどこでも常に起きる「介護あるある」みたいに語るのは、ちょっと違うんじゃないか。
どの業界も人手不足で、今は完全に売り手市場だ。
そんな中で、自分の仕事をわざわざ下げてどうする。
「事実を書いてるだけ」って言うかもしれない。
まあ、それもわかる。愚痴りたくなる日もあるし。
でもさ、
自分で思い描いた理想の介護があるから不満が出るんでしょ。
じゃあ、まずやってみようよ。
自分一人じゃ変わらない?
いや、変わるよ。
現場って、意外と“空気”でできてるから。
笑顔で接すれば、ちゃんと笑顔が返ってくる。
認知症で不可解な行動があっても、全てそれにはちゃんと理由がある。
不安でフロアの中をグルグル歩き回ってる利用者がいるなら、安心させてあげればいい。
コールを何回も押す人のニーズもくみ取ってあげればいい。
認知症対応、それが僕ら介護職のプロの技術でしょ。
家族だって、ほとんどの人は感謝してくれている。
面会に来れば
「いつもありがとうございます」「ご迷惑をおかけします」「お世話になってます」
って言ってくれる。
それに「そんなことないですよ」「大丈夫ですよ」って笑って返せる頼もしい人たちが現場にいる。
せっかく世界中に発信できる時代なんだから、
そういうところ、見せたほうがよくない?

自分がいた職場に闇や地獄があったとしても、バズるからって
それだけの仕事に、自分でしないでほしい。


